ワカメ・昆布の加工を行う「松栄」(葛飾区青戸3)が東日本大震災で岩手県大船渡市の製造工場を失って半年、本社での製造を開始して3カ月が経過した。
同社は1987(昭和62)年、大船渡市でワカメを中心とした製造加工業として開業。翌年には本社・事務機能を葛飾区に移転し、震災前には大手コンビニチェーンのおでんの昆布巻きを大きく扱うなど、事業を伸ばしてきた。
しかし、3月11日に東日本大震災が発生。幸いなことに従業員全員の安否が確認されたが、12年前に拡張された400坪の工場は跡形もなく津波で流されてしまった。同社取締役の岩崎新一郎さんは「工場の跡地には加工に関係する機材が一切なくなっていた。探し歩いて出てきた機材を集めたが、津波の影響で使い物にならない。二重ローンの問題にも直面し、正直1カ月結論を出せずに悩んでいた」と当時を振り返る。
岩崎さんは現地と東京を行き来し、工場の復旧などを着手。工場の復旧については「数年単位で時間が掛かる。被災地でなく東京でできることを考えた」と話す。岩崎さんは事務所1階の駐車場スペースを改造し、簡易的な製造工場を開設。事務職など東京に残っていたスタッフを中心に工場の操業をスタートさせた。「工場の機材を取り扱う業者も被災して機材が集まらなかったが、塩と昆布をかき混ぜる機械などは、コンクリートを混ぜる機械を自ら改造するなど苦労もあった」とも。
復旧を目指した理由について、岩崎さんは「大船渡を中心に三陸のワカメ漁師たちが立ち上がろうとしているとき、自分たち加工業者も頑張っていかないといけないと感じた。30年近く操業できたのも、漁師や関係者などの人脈でここまでやってこられた。また大船渡の工場を立ち上げて三陸のワカメを広めたい」と意欲を見せる。
現在は在庫などを極力削減し、加工生産に注力するなど被災した工場の20分の1に近い15坪の敷地で「以前の3分の2程度の受注をもらい生産している」という。「三陸のワカメの魅力を、今までつながってきた漁師と共に少しでも多くの人に伝えたい」とも。