葛飾・宝町で風船加工・印刷を行う「葛飾ラテックス工業所」(葛飾区宝町2)が昨年12月、公式ECサイト「下町の風船屋さんfrom葛飾ラテックス」をオープンした。
同社は1967(昭和42)年、現社長・辻野亮一さんの父・辻野好一さんが創業。印刷所から風船メーカーを経て、現在は名入れ風船・オリジナル風船の加工・印刷を手掛ける。
幼少期から風船に親しんで育った亮一さんは高校・大学と理系に進学し、機械工学を学んだ。当時、風船印刷は単価が高く受注しにくいことを理由に多くの事業者が撤退。亮一さんは自ら製図を行い、安価で大量印刷を実現する風船専用のオフセット印刷機を開発、同社は風船の購入先を失っていた多くの企業からの受注を一手に引き受けるようになったという。
名入れ風船が利用される先は、住宅展示場や自動車ディーラー、新規にオープンした店、学校の体育祭・文化祭など多岐にわたるという。風船は復興や旅立ちの演出としても活躍。2017(平成29)年7月の「九州北部豪雨」により運休していたJR久大本線が復旧した際には、記念動画が制作され、同社が印刷した約2万5000個の名入れ風船が空を舞った。
しかし近年、販売先である多くの業界が新型コロナウイルスによる打撃を受け、風船需要が縮小。亮一さんは「ネットを見ていると、個人で風船を使う人が多い。家庭用としての需要があるのでは」と、新たな需要の掘り起こし策としてECサイトのオープンに至ったという。
ECサイトを発案した亮一さんの娘・ひとみさんは、これまで同社が積極的に一般販売を行わなかった背景に「販売単位の大きさ」を挙げる。同社にオリジナル風船を発注する際、単位が500個以上からで、数量や金額が大きく、個人では手が出にくいという。
そこで「もっと風船を身近に感じてほしい。祝いの場などで使ってもらえるとうれしい」と、オリジナルデザイン風船の販売単位を見直し、手頃な数量と金額に設定。これによりSNSを中心に拡散、ECサイト経由での注文が生まれ始めたという。
現在の一番人気商品は、疫病封じの妖怪である「アマビエ」がデザインされた「アマビエちゃん風船」(30個=550円)で、印刷で使う版を亀有香取神社(亀有3)で祈とうしてもらい、新型コロナウイルス収束の願いを込めた。
亮一さんは「目の前で膨らむ風船は、子どもだけでなく大人も笑顔にする力がある」とし、「今後は従来の取引先との関係を維持しつつ、個人や家庭にもっと風船を身近に感じてもらいたい。気軽に手を取ってもらえるよう、さらにECサイトに力を入れていきたい」と話す。
ひとみさんは「昔は葛飾にもたくさん風船屋さんがあったが、今はほとんどない。もっと地元の皆さんに風船で楽しんでもらえたら」と、地域貢献への意気込みを見せる。